著者:若尾儀武
定価:2000円+税
判型:四六判上製
ページ数:104
ISBN:ISBN978-4-908568-14-5
戦禍に葬られた人々の聲を遠い歳月の記憶が消えぬ間にいまここに呼び戻す。
内に残る切れぎれの声を遡上し、いのちと正対した女たち、子供たちの戦争を聞く。
「丸山豊記念現代詩賞」受賞詩人の第二詩集。
遠(とお)で空襲警報が鳴ってました
わたしは竈の火 落さんと
大鍋いっぱいのキャラブキ煮てました
そしたら お母ちゃん
担いでいった鍬 ほったらかしにして
家の戸開けるなり
グラマン 生駒山越えて来よった
キャラブキなんかもうどうでもええ
はよ防空壕に入り!
言わはって
カヨのキャラブキはうまい
苦みうまいこと残して
いつ どこで覚えたんやろな
遅い春の夕飯
お母ちゃん
いつも感心したように言うてくれはるのん
それが聞きたくて
〔…〕
カヨは頑固(こわ)い子や
なに考えてるのか分からへん
お母ちゃんはそういいます
そやけどお母ちゃん
キャラブキのこと
ほんまにどうでもよかったんですか
とろとろと手ェ掛けて守るほどのもん
他にあったんですか
いのちは
ほんまに防空壕に入って守るほどのもんやったんですか
あの時代
(『枇杷の葉風土記』十五より抜粋)
著者プロフィール
若尾儀武 (わかお・よしたけ)
1946 年、奈良県大和郡山市の農村部に生まれる。現・ 神奈川県藤沢市在住。
2015 年、第一詩集『流れもせんで、在るだけの川』(ふらんす堂)にて、第 24 回丸山豊記念現代詩賞受賞。