
遠すぎる距離が淋しいだけ
時の往来、日々の陰陽にひそむ解き得ないこころの揺れ。その揺れの小さな叫喚にそっと手を寄せる。鈴木正枝第二詩集刊行。
薄い闇が忍び寄るころ
初めて気づく
そこに月があったということに
ほんとうはずっとそこにあった
町も家々もずっとそこに
〔...〕
私は想っている
そうやって部屋がひとつ消えたことを
そうして
そのぶん町は暗くなるのだ
どんどん容赦なく暗くなっていくのだ
忘れない
気づかれなかったという現実が
何年も物言わず溜まっていくということを
Mよ
私は忘れない
──「陽が落ちて」抜粋