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最後に満月を見た日のことは覚えていないけれど
夜になると見るだろう月の姿を昼のうちに思い描くことはできる
わたしにも透き通る触手があればいいのに
そうしたら進む道などは光の方向でしかなくなるから
水面に落ち込んだかつての月明かり、今は亡き人が昔飼っていた犬の鳴き声、夢うつつの気水域に立ち現れるさざなみのような声や断片を拾い集めるように書き継がれた32篇。詩人・野木京子、第6詩集。
装幀=稲川方人
空の河原かどこかで逢ったことのある/小さな子が部屋の隅から出てきて言った/ゆっくりと回転しながら/この世に現れ出たのだから/立ち去るときもきっと/見えない姿のまま/ゆるやかに回転して/戻っていくはず/そのとき真新しい風を頰に浴び/初めての色彩の景色を見るから/楽しみにしているとよいよ/と(「空の河原」より)
著者プロフィール
野木京子(のぎ・きょうこ)
詩人。熊本県八代市生まれ。2007年に『ヒムル、割れた野原』(思潮社、2006年)で第57回H氏賞を受賞。
その他の詩集に『明るい日』(思潮社、2013年)、『クワカ ケルル』(思潮社、2018年)などがある。