刊行物カテゴリー: 詩集

古屋 朋 詩集 ひとつゆび

著者:古屋 朋
定価:2200円+税
判型:A5判
ページ数:84
ISBN:978-4-908568-27-5

見開かれた瞳に映じる世界の明滅。
新鋭による第一詩集。
装幀=鈴木規子/カバー・口絵写真=manimanium

このとまらないゆれは
うまれるずっとまえからはじまっていると
どこかに書いてあったようにおもう
大きなゆれにたおれないよう
われないよう
あんしんかんを やすらぎを
かろうじて
ひとつのゆびで
おさえてゆくのだろう
(「ひとつゆび」より)

著者プロフィール
古屋 朋(ふるや・とも)
一九九一年北京市生まれ、東京都育ち。早稲田大学大学院文学研究科修了。
『ユリイカ』今月の作品掲載(「ひとつゆび」「とける海」)。
文芸同人『プラトンとプランクトン』参加。

栗原洋一 詩集 岩船

著者:栗原洋一
定価:2000円+税
判型:A5判
ページ数:64
ISBN:978-4-908568-24-4

わが身はすでに 鈴虫の うつせみの灰の身ならば
いまはただこのいつくしみの思いを この枯野にしずめ 薄明の灰に帰らむ
おほかたの 常ならぬ世の 秋の果てに

1990年代に『吉田』『草庭』の二冊の歴史的な詩集を発表し、以後も世界に対しマージナルな位置で孤独に詩作を続けてきた詩人・栗原洋一の26年ぶりの新詩集。
伊予風土記の逸文をモチーフに伊予松山の伝承や神話と詩人の「現在」が往還する長歌「岩船」とその反歌「櫂ノ歌」からなる表題詩篇「岩船」、広島への原爆投下という「歴史的惨事」に対峙する「宇品まで」「厳島」「創造者」など16篇の詩を収める。

栞=稲川方人/林浩平

はるか遠い古語の文献(「源氏物語」等々)に響いているのはあくまでも「現世」に他ならない。「現世」こそが「常ならぬ世」の彼岸であることを、詩集『岩船』はわれわれに教えるだろう。
稲川方人

ハイデッガーがその詩論で唱えたように、我々は生の実存的な不安に晒されるなかで、Da「現」の根源的な顕現である「開け」を経験するために詩を書くのである。栗原氏が郷土松山の歴史の裂目に身を差し入れて、歴史事象を題材として詩を書くことこそが、自らの生を「現存在」として掴みとろうとする、のっぴきならない営為ではないだろうか。
林 浩平

著者プロフィール
栗原洋一(くりはらよういち)
1946年愛媛県松山市生まれ。詩集に『吉田』(七月堂、1990年/新版・2009年)、『草庭』(思潮社、1993年)。

田尻英秋 詩集 こよりの星

著者:田尻英秋
定価:2400円+税
判型:A5判変形
ページ数:100
ISBN:978-4-908568-23-7

くずおれた現実に対峙する詩語の硬質な響き。
どこに起ち上がれば世界の秩序は見渡せるのか。
異形の抒情詩がここに!


もういちど木の葉を
もういちど木の葉の時を
葉脈から滲んでくる色水が
すみずみまで自分の思念を塗り替える時
奥の部屋で一本の木は花を咲かせる
もういちど草原の驟雨を夢見る
後悔しないように、と
(「木の葉の時」より)

著者プロフィール
田尻英秋(たじり・ひであき)
一九七一年生まれ。神奈川県横浜市出身。 詩集『機会詩』(竹林館、二〇〇五年)。
詩誌「タンブルウィード」同人。

多田陽一 詩集 きみちゃんの湖

著者:多田陽一
定価:2000円+税
判型:四六判
ページ数:128
ISBN:978-4-908568-22-0

第52回横浜詩人会賞受賞

障がいと向きあう子供たちへの真摯な眼差し。
彼らのこころと身体の姿に言葉が寄り添うとき命の場所がきらめく。
長らく特別支援教育に携わってきた著者が綴る28篇の詩。


世界を抱きしめようとする
産声にも似て
きみのうっすらと色づいた唇が
ことばの葉脈に
口づけをする
静かによせてくる
きみからのひとすじの径が
ほのかに光りだす
(「うっすらと色づいた唇が」より)

著者プロフィール
多田陽一(ただ・よういち)
1955年生れ。神奈川県伊勢原市出身。高校教育を経て、長らく特別支援教育に携わる。詩誌「タンブルウィード」同人。

白鳥央堂 詩集 想像星座群

著者:白鳥央堂
定価:2400円+税
判型:A5判
ページ数:160
ISBN:978-4-908568-21-3

ここに
つづけられない詩を、
セロテープと花でおさえて
夜でも朝でもなく、いま、立っていること
──「文化祭 午後の部」より

待望の第二詩集ついに刊行。

“夏生まれのぐじゃぐじゃ ともだちができた、暗闇のなかで、寝転がってしかできない話をした/網目越しの空に吸いついた星、その向こうに、別の夜を想う余地のある横顔にみとれた”(「双子音階」より)
白鳥さんの詩を読んでいると、どこに居てもあっさりとひとりになれる。
これは自分でも不思議な感覚で、一篇の詩の世界に入り込む、というのとも違っていて、詩が創ったり崩したりする世界を、別の場所から眺めている。
そこはひんやりとした場所、意識は冴え渡り、感情(感情になる前のものを含め)が増幅する。そこに行きたくて、繰り返し読んでしまう。
そして詩の断片・彩りを身体にまとい、少しだけ良くなって、日常へ戻っていく。
葉ね文庫 池上規公子

著者プロフィール
白鳥央堂(しらとり・ひさたか)
1987年、静岡県生まれ。第47回現代詩手帖賞受賞。著書に第1詩集『晴れる空よりもうつくしいもの』。

手塚敦史詩集 球体と落ち葉

著者:手塚敦史
定価:2400円+税
判型:A5判変形・仮フランス装
ページ数:116
ISBN:978-4-908568-18-3

午後遅く、太陽の
取り分を与えられた手のひらが
触れた物質その生涯をかけて打ち込めるものへ

「ほんとうの対話ができるものにわたしはなりたい」

手塚敦史、第六詩集。

装画=中島登詩子 造本=稲川方人
あらゆる瞬間において葉は
奥深い思慮の形状へと、ながれるであろう
フィルムに貼られた綿毛や翅などの細かさとともに
複写され、
映写機を通して投影されている
地肌は
気触れてゆく暗やみを見上げ、底から不意に込み上げる胃酸の臭いを
嗅ぎ
これから生まれて来るものを予感している
光源は、幾重にも揺れている
モスライト
とおくまで離れていった印象を、何度もてのひらへ集め、
いつかのほの白い指は
自然の霊気を住まわせたように動く

──「深泥池」より

著者プロフィール
手塚敦史(てづか・あつし) 1981年甲府市生まれ。詩集に『詩日記』(ふらんす堂、2004年)、『数奇な木立ち』(思潮社、2006年)、『トンボ消息』(ふらんす堂、2011年)、『おやすみ前の、詩篇』(ふらんす堂、2014年)、『1981』(ふらんす堂、2016年)。

菊井崇史詩集 ゆきはての月日をわかつ伝書臨

著者:菊井崇史
定価:2300円+税
判型:A5変形
ページ数:350
ISBN:978-4-908568-15-2

この時代を生きる切り詰めた生存の姿勢に刻印される誠実な言葉の営為
350頁におよぶ渾身の長篇詩

埋めることなどできない離散 別離をおもいしらされながら
手紙を託すように 遙かな宛先へ書き継がれた詩文に息衝く抒情
その痛切も断絶も 詩に護られねばならない

著者プロフィール
菊井崇史(きくい・たかし)
1983年大阪生まれ。詩、評論、写真等を発表。書籍の編集、展覧会の企画等にもたずさわる。

菊井崇史詩集 遙かなる光郷へノ黙示

著者:菊井崇史
定価:2000円+税
判型:A5判
ページ数:108
ISBN:978-4-908568-16-9

著者自身の印刷・製本により少部数のみ制作された幻の私家版詩集を復刻

詩の雨が降っている。とうとうやって来た詩の雨が降っている。ひたすら詩の雨が降っている。詩の風景は、詩が書かれることによってその都度、更新される。しかし圧倒的なヴィジョンの顕れ「月膚に千々ノ草花、むさぼる観音の瞳」によって詩の風景にとうとう、革命的な〝光〟が顕れたのである。詩の風景は開け放たれた。
(岸田将幸氏解題より抜粋)

若尾儀武詩集 枇杷の葉風土記

著者:若尾儀武
定価:2000円+税
判型:四六判上製
ページ数:104
ISBN:ISBN978-4-908568-14-5

戦禍に葬られた人々の聲を遠い歳月の記憶が消えぬ間にいまここに呼び戻す。
内に残る切れぎれの声を遡上し、いのちと正対した女たち、子供たちの戦争を聞く。
「丸山豊記念現代詩賞」受賞詩人の第二詩集。

遠(とお)で空襲警報が鳴ってました
わたしは竈の火 落さんと
大鍋いっぱいのキャラブキ煮てました
そしたら お母ちゃん
担いでいった鍬 ほったらかしにして
家の戸開けるなり
グラマン 生駒山越えて来よった
キャラブキなんかもうどうでもええ
はよ防空壕に入り!
言わはって

カヨのキャラブキはうまい
苦みうまいこと残して
いつ どこで覚えたんやろな
遅い春の夕飯
お母ちゃん
いつも感心したように言うてくれはるのん
それが聞きたくて

〔…〕

カヨは頑固(こわ)い子や
なに考えてるのか分からへん
お母ちゃんはそういいます
そやけどお母ちゃん
キャラブキのこと
ほんまにどうでもよかったんですか
とろとろと手ェ掛けて守るほどのもん
他にあったんですか
いのちは
ほんまに防空壕に入って守るほどのもんやったんですか
あの時代
(『枇杷の葉風土記』十五より抜粋)

著者プロフィール
若尾儀武 (わかお・よしたけ)
1946 年、奈良県大和郡山市の農村部に生まれる。現・ 神奈川県藤沢市在住。
2015 年、第一詩集『流れもせんで、在るだけの川』(ふらんす堂)にて、第 24 回丸山豊記念現代詩賞受賞。

中尾太一 詩集 ナウシカアの花の色と、〇七年(ゼロナナ)の風の束

著者:中尾太一
定価:2500円+税
判型:菊変形上製
ページ数:92
ISBN:ISBN978-4-908568-12-1

第10回鮎川信夫賞受賞

重層化された中尾詩学の奥底に潜む抒情の創痍
その新たな展望を示す待望の詩集

鳥の絵の大きな叛旗をかざして
詩は自由の地へ行く
中尾太一のあふれるエレジー
その未踏のカナシミを大声で歌え!

かつて/世界概観バイシクルの車輪が回ると風が吹いていた、太陽の光を少しだけ信じていた虹の青は銀やんまの銀に溶け/突出したさいのうを風の中に送った、二、三、四人、の壊れたペダリングにうきうきした日から、詩がずっと若いよ(「ちからのオリジン、二〇〇七」より)

著者プロフィール
中尾太一(なかお・たいち)
1978年鳥取県生まれ。2006年、思潮社50周年記念現代詩新人賞受賞。2007年、第一詩集『数式に物語を代入しながら何も言わなくなったFに、掲げる詩集』を刊行。詩集に『御代の戦示の木の下で』(2009年)、『現代詩文庫 中尾太一詩集』(2013年)、『a note of faith ア・ノート・オブ・フェイス』(2014年)。