第一詩集『雪ひとひら、ひとひらが妹のように思える日よ』で第27回歴程新鋭賞を受賞した河口夏実、10年ぶりの待望の第二詩集。
くるしみよりも自由なこころを歌う珠玉の24篇。
おやすみ
おおきく握手をして別れよう
ここで立ちすくむ
筋力なら
すこし鍛えたほうがいいよ
羽根がひろがる歌をうたって天に近づく
角を曲がっていく
まぼろしの音楽が聞こえる
(「ラジオの日々」より)
著者プロフィール
河口夏実(かわぐち・なつみ)
詩集に『雪ひとひら、ひとひらが妹のように思える日よ』 (2016年 書肆子午線/第二十七回歴程新鋭賞)
刊行物カテゴリー: 詩集
【新刊】冨岡悦子詩集 海辺の翼
柔らかな理性に抱かれるまなざし
さまようこころにも言葉は寄り添い
喧噪なき道行きを慈しむ
前詩集『斐伊川相聞』で第58回日本詩人クラブ賞を受賞した冨岡悦子、新詩集。
秋の夜、わたしのフネに人を招いた。
黒葡萄と手書きの海図をたずさえて、
あなたはそっと足を踏み入れた。
ちいさなフネに、ようこそ、狭いけれど、ようこそ。
これから陸地を離れてふたり、夜をわたるのね。
今夜はいざよいの月。
東から浮かんで、しずしずのぼってゆく。
月はこうこうとあなたの海図を照らし、
ここがどこなのか人差し指を重ね、
アクロス・ザ・ユニバースをふたりで口ずさんで。
わたしたちの夜が
こわれないように
額の奥で
祈りながら。
(「いざようよ」より)
著者プロフィール
冨岡悦子(とみおか・えつこ)
1959年東京都生まれ。
著書
『植物詩の世界 日本のこころ ドイツのこころ』(2004年、神奈川新聞社)、『パウル・ツェランと石原吉郎』(2014年 、みすず書房、第15回日本詩人クラブ詩界賞受賞)
詩集
『椿葬』(2007年、七月堂)、『ベルリン詩篇』(2016年、思潮社)、『反暴力考』(2020年、響文社、第54回小熊秀雄賞、第23回小野十三郎賞受賞)、『斐伊川相聞』(2024年、書肆子午線、第58回日本詩人クラブ賞受賞)
大石ともみ詩集 unlearn アンラーン
かなしみというゆたかさがあると
わたしたちがいつか伝えうる日のために
いくつの問いかけどれほどのunlearn
学びなおし学びほぐす日々を重ねていくだろう
大石ともみ、第5詩集。
装幀=清岡秀哉
やわらかく微笑んで
澄んで透きとおって
生を終えた日
窓の外
青空に風花が舞って
日一日と澄んでいった母は
風花のなかにいた
(「風花(二)」より)
著者プロフィール
大石ともみ(おおいし・ともみ)
1956年愛知県生まれ。日本現代詩人会会員、中日詩人会会員。
個人詩誌「はるにれ」。豊田中日文化センター講師。
詩集 『水系』(「私の詩の会」、1983年)、『ルーシー 遠い虹のように』(樹海社、1994年)、『手ぬ花』(思潮社、2000年)、『めぐり水のとよのあかり』(思潮社、2015年)
沢田敏子詩集 祝祭の種
第59回日本詩人クラブ賞受賞
大道芸人の家族は国境を越えられただろうか
祝祭の種は運ばれただろうか
この時代に、言葉を携えて生き延びるための、祈りにも似た20篇の詩。
沢田敏子、第9詩集。
装幀=清岡秀哉
地軸は もういなくなったひとたちの重さで
ぎ・し・り と いちにちを回転させる
いなくなった ひとよ
だから ずっと いてください
(「火夫と麵麭屋」より)
著者プロフィール
沢田敏子(さわだ・としこ)
愛知県生まれ。日本現代詩人会・日本詩人クラブ会員。
既刊詩集
『女人説話』(1971年)、『市井の包み』(1976年)第十回小熊秀雄賞、『未了』(1980年)第二十一回中日詩賞、『漲る日』(1990年)、『ねいろがひびく』(2009年)、『からだかなしむひと』(2016年)、『サ・ブ・ラ、此の岸で』(2018年)、『一通の配達不能郵便(デッド・レター)がわたしを呼んだ』(2020年)。
鈴木正枝詩集 秘かに青く、深く
ひとつのベンチで、部屋で、ひとつの時を、視野を、分かち合う。やがて、それが断たれる日、独りの眼差しに誘われるもの。
前詩集『そこに月があったということに』で第13回日本詩歌句随筆評論大賞詩部門大賞受賞した鈴木正枝、第三詩集。
装幀=稲川方人。
あなたの大きく見開いた眼が
わたしの視線を切り落とし
何かが壊れてはらはらとこぼれ落ちる
それはふたりの肩に
少しゆるんだ言い訳のように降り積もり
耐えきれない沈黙の端がほころびて
床がゆっくりと濡れていく
(「共有される沈黙」より)
著者プロフィール
鈴木正枝(すずき・まさえ)
茨城県出身。横浜市在住。
『そこに月があったということに』(2016年、書肆 子午線)で第13回日本詩歌句随筆評論大賞詩部門大賞受賞。
その他の詩集に『キャベツのくに』(2010年 ふらんす堂)。
詩誌「タンブルウィード」「天国飲屋」「るなりあ」同人。
坂多瑩子詩集 おはようジャック&ベティ
あなたは/ジャック・ジョーンズですか
わたしはベティ・スミス/革靴をはいてます
ずっと昔の昨日へ弾んでゆけ、詩よ。世界は擦れちがう破片の愛ばかり。
坂多瑩子新詩集。
装幀=稲川方人。
シーちゃんは家船っ子
川に落っこちた話ばかりするので
何してたのどうしたの
わざと聞いて
それでそれでと笑いころげる
ええ者がええ者のまま生きていくのって
息苦しくてしかたがないよ
わるもんいっぱいの映画はなんて痛快なのだろう
なんちゃらかんちゃら風船みたいにかるくて
大きく深呼吸してごめんなんていわなくていい
ズックのかたわれが流れていく
だからなんなの
ハウスボートやねん
影のように座っているシーちゃんがおいでよとあたしを呼んだ
ひまとよ川の祭り
うすく花火があがっている
(「ひまとよ川」より)
著者プロフィール
坂多瑩子(さかた・えいこ)
広島県生まれ。第一詩集『どんなねむりを』(2003年)で第36回横浜詩人会賞受賞。他の詩集に『塩壺とスプーン』(2006年)、『お母さんご飯が』(2009年)、『ミルクパーパの裏庭』(2011年、電子ブック)、『ジャム 煮えよ』(2013年)、『こんなもん』(2016年)、『さんぽさんぽ』(2019年)、『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』(2023年)。
増田秀哉詩集 遺棄されたものたちのドローイング
社会によって遺棄された汚点、擦れた絵の具、折れた鉛筆の芯、チャコールの屑。線にもなりきれず、ただ不快として投げられた痕跡。その粗野のなかに潜む慎重な粗暴さ、あるいは、投げやりな囁き声をどうか聴き取ってほしい。
強烈な印象をもたらした第一詩集『零時のラッパをぶっ放せ』から8年、第二詩集ついに刊行!
装幀=清岡秀哉
春はリハーサルで終わった、夏はバーモントが攻めてくるだろう、痣だらけの部屋がソフトフォーカスに燃える、寝癖がますますひどくて、さよなら、時候の挨拶よ、「深夜のカフェインから始まるぼくらの蜂起」のために、茎燃ゆ、茎燃ゆ、ってはしゃぐなよ、隙間という隙間に錯乱を産み付けて、これはチャンスなんだろ、目脂が青く発光するのはチャンスなんだろ(「ビジョンメガネ」より)
著者プロフィール
増田秀哉(ますだ・しゅうや)
1987年大阪府生まれ。
詩集に『零時のラッパをぶっ放せ』(七月堂、2017年)。
福島直哉詩集 星の身体
かさなりあうことのないわたしとあなたの瞳に映る記憶の故郷、彼方の岸辺。
涙を失くし、季節を失くし身体を失くしても、生まれくる無名のまたたきが次々にこぼれ落ちる。
待望の福島直哉第二詩集ついに刊行。深き抒情の森へ!
装幀=稲川方人
からだをなくして
それでも生きているさびしさをいのちと呼んで
わたしはもう二度と
誰かに会うことはなくなって
そのことに少しほっとしながら
溜息をこぼすようにそっと空を見上げて
ひかりとかげが一つの音のように
雲の中を流れてゆくあいだ
わたしはこえやことばを使うことに
激しくかなしみながら
そこで流れてゆく多くの景色を
故郷のように眺めている
(「椿の葉は鉛色の光を含み」より)
著者プロフィール
福島直哉(ふくしま・なおや)
1989年、神奈川県横浜市生まれ。
第一詩集『わたしとあなたで世界をやめてしまったこと』(2016年)。
蜆シモーヌ詩集 uta こめでぃあ uta
戦争、信仰、たべもの、愛、存在、涙、運命、恍惚…
オーラルにもテクスチュアルにも伸縮する言葉の群れが世界をユーモラスにうたい照らしだす
コラージュ詩から言語芸術論詩まで
複色に光る詩語たちの行進!蜆シモーヌ第三詩集
じゃ、なにか
人生は
空耳なのか。と、鼻をつまむと
そりゃー
地獄だろ、人生は。と、人生がいう
(「ランチもっと、う。まうまなランチを。地獄で」)
しぼりたて
ハイ
テンションで
LUCKY小籠包。は
大賑わい
Y。Y。よーこさん
ヘンリー
ミラー。に、虹をかける
横で
福。福。ろぶすたー
まっ
蟹
ぼいるーされて
あ、
しゅら。に、なるみっどないと
この
すばらしき
世紀末
(「LUCKY小籠包。かみんぐ。うぃーくえんど」)
著者プロフィール
蜆シモーヌ(しじみ・しもーぬ)
1979 年生まれ。第 59 回現代詩手帖賞受賞。
詩集に『なんかでてるとてもでてる』(思潮社、2021 年)、『膜にそっ
て膜を』(書肆子午線、2023 年)。
藤田文江全集
戦前・鹿児島の知られざる詩人・藤田文江。
わずかな生涯の中で、その身の内に躍動する漆黒を見つめた藤田の「聲」を、いま呼び起こす。
左川ちか、永瀬清子と同時代を生き、中野重治に高く評価された詩人の初の全集。
唯一の詩集『夜の聲』全篇と未収録詩篇、散文、書簡、編者による解説、妹・林山鈴子氏へのインタビューを収録。
装幀=稲川方人
夜の聲は何故こゝまでやつて来た。
おまへの咳を聞いてゐると
私はたまらなく寂しくなる。
然し私は私の里おまへに媚びるよ
私はおまへと共にある時
ほんのわづか富んでゐるのだから。
(『夜の聲』より)
著者プロフィール
藤田文江(ふじた・ふみえ)
1908年鹿児島生まれ。短かった人生の約12年間を植民地台湾で送り、本土(鹿児島)に戻って女性だけの詩誌『くれなゐ』に参加。その後『詩神』投稿欄の全国の若き詩人たちが集った詩誌『鬣』の同人に。1933年『万国婦人子供博覧会』の歌詞一等当選。同年、唯一の詩集『夜の聲』を編集したが出版直前に24歳で病死。
編者プロフィール
谷口哲郎(たにぐち・てつろう)
1966年鹿児島生まれ。詩誌『オドラデク』発行。詩誌『野路』『天秤宮』『詩創』同人。
村永美和子の評伝『詩人藤田文江』によりその詩と存在を知り、「戦争の地震計としての詩 藤田文江詩集『夜の聲』(1933)論」、自ら調査した未収録詩篇を中心に「藤田文江異聞」を執筆。