眞鍋呉夫生誕100年記念出版。
戦時下、同人誌「こをろ」に集った若き文学者たちとの青春、「現在の会」への参加と共産党への入党、日本浪曼派の流れを汲む文芸誌「ポリタイア」への参加、戦争、戦後を通し「孤立においての連帯」を求めた俳人・作家、眞鍋呉夫。
43年にわたってその謦咳に接した著者が描く詩人の生涯。
眞鍋呉夫は最晩年にいたるまで、無結社を貫いた。宗匠となることを拒んで、座の人間はみな平等で対等な関係であることをめざした。俳句が「師系」の文学であることを認めなかった。しかし芭蕉と曾良、魯迅と柔石、萩原朔太郎と伊東静雄といった人たちの間にはあった、他からのいかなる権威や道徳や習慣によって成立した関係とも無縁な「因習外の師弟関係」を求め続けた。(「第十章 生涯無結社」より)
著者プロフィール
近藤洋太(こんどう ようた)
1949年福岡県久留米市生まれ。中央大学商学部経営学科卒業。詩集に『筑紫恋し』(11年)、『果無』(13年)、『CQICQ』(15年)、『現代詩文庫231近藤洋太詩集』(16年)、『SSS』(17年)など。評論集に『矢山哲治』(89年)、『反近代のトポス』(91年)、『〈戦後〉というアポリア』(00年)、『保田與重郎の時代』(03年)、『人はなぜ過去と対話するのか─戦後思想私記』(14年)、『辻井喬と堤清二』(16年)、『詩の戦後―宗左近/辻井喬/粟津則雄』(16年)、『ペデルペスの足跡―日本近代詩史考』(18年)。
アーカイブ: 刊行物
眞鍋呉夫全句集
眞鍋呉夫生誕100年記念出版。
生涯、師系を持たず、無結社を貫き、自らの生(エロス)と死(タナトス)を極限まで凝視しつづけた俳人・小説家、眞鍋呉夫。
その生誕100年を記念して、第一句集『花火』、第二句集『雪女』(藤村記念歴程賞、読売文学賞受賞)、第三句集『月魄』(蛇笏賞、日本一行詩大賞、鬣 TATEGAMI俳句賞受賞)から句集未収録作品まで、その全句業をここに集成。
跋文=高橋睦郎
栞=那珂太郎/粟津則雄/種村季弘/上久保正敏
眞鍋呉夫(まなべ くれお)
作家・俳人。大正9年(1920年)、福岡県生まれ。
昭和14年(1939年)同人誌「こをろ」を矢山哲治、阿川弘之、島尾敏雄、那珂太郎らと創刊。
昭和16年(1941年)9月、遺書のつもりで第一句集『花火』を刊行。
1948年、小説「二十歳の周囲」などにより新進作家として注目される。
翌49年、「サフォ追慕」により第21回芥川賞候補に推される。
後年は俳句の創作が中心となり、1992年刊行の第二句集『雪女』で藤村記念歴程賞、読売文学賞を、2010年刊行の第三句集『月魄』で蛇笏賞、日本一行詩大賞、鬣TATEGAMI俳句賞受賞を受賞した。
2012年、92歳で没する。
栗原洋一 詩集 岩船
わが身はすでに 鈴虫の うつせみの灰の身ならば
いまはただこのいつくしみの思いを この枯野にしずめ 薄明の灰に帰らむ
おほかたの 常ならぬ世の 秋の果てに
1990年代に『吉田』『草庭』の二冊の歴史的な詩集を発表し、以後も世界に対しマージナルな位置で孤独に詩作を続けてきた詩人・栗原洋一の26年ぶりの新詩集。
伊予風土記の逸文をモチーフに伊予松山の伝承や神話と詩人の「現在」が往還する長歌「岩船」とその反歌「櫂ノ歌」からなる表題詩篇「岩船」、広島への原爆投下という「歴史的惨事」に対峙する「宇品まで」「厳島」「創造者」など16篇の詩を収める。
栞=稲川方人/林浩平
はるか遠い古語の文献(「源氏物語」等々)に響いているのはあくまでも「現世」に他ならない。「現世」こそが「常ならぬ世」の彼岸であることを、詩集『岩船』はわれわれに教えるだろう。
稲川方人
ハイデッガーがその詩論で唱えたように、我々は生の実存的な不安に晒されるなかで、Da「現」の根源的な顕現である「開け」を経験するために詩を書くのである。栗原氏が郷土松山の歴史の裂目に身を差し入れて、歴史事象を題材として詩を書くことこそが、自らの生を「現存在」として掴みとろうとする、のっぴきならない営為ではないだろうか。
林 浩平
著者プロフィール
栗原洋一(くりはらよういち)
1946年愛媛県松山市生まれ。詩集に『吉田』(七月堂、1990年/新版・2009年)、『草庭』(思潮社、1993年)。
田尻英秋 詩集 こよりの星
くずおれた現実に対峙する詩語の硬質な響き。
どこに起ち上がれば世界の秩序は見渡せるのか。
異形の抒情詩がここに!
もういちど木の葉を
もういちど木の葉の時を
葉脈から滲んでくる色水が
すみずみまで自分の思念を塗り替える時
奥の部屋で一本の木は花を咲かせる
もういちど草原の驟雨を夢見る
後悔しないように、と
(「木の葉の時」より)
著者プロフィール
田尻英秋(たじり・ひであき)
一九七一年生まれ。神奈川県横浜市出身。 詩集『機会詩』(竹林館、二〇〇五年)。
詩誌「タンブルウィード」同人。
多田陽一 詩集 きみちゃんの湖
第52回横浜詩人会賞受賞
障がいと向きあう子供たちへの真摯な眼差し。
彼らのこころと身体の姿に言葉が寄り添うとき命の場所がきらめく。
長らく特別支援教育に携わってきた著者が綴る28篇の詩。
世界を抱きしめようとする
産声にも似て
きみのうっすらと色づいた唇が
ことばの葉脈に
口づけをする
静かによせてくる
きみからのひとすじの径が
ほのかに光りだす
(「うっすらと色づいた唇が」より)
著者プロフィール
多田陽一(ただ・よういち)
1955年生れ。神奈川県伊勢原市出身。高校教育を経て、長らく特別支援教育に携わる。詩誌「タンブルウィード」同人。
白鳥央堂 詩集 想像星座群
ここに
つづけられない詩を、
セロテープと花でおさえて
夜でも朝でもなく、いま、立っていること
──「文化祭 午後の部」より
待望の第二詩集ついに刊行。
“夏生まれのぐじゃぐじゃ ともだちができた、暗闇のなかで、寝転がってしかできない話をした/網目越しの空に吸いついた星、その向こうに、別の夜を想う余地のある横顔にみとれた”(「双子音階」より)
白鳥さんの詩を読んでいると、どこに居てもあっさりとひとりになれる。
これは自分でも不思議な感覚で、一篇の詩の世界に入り込む、というのとも違っていて、詩が創ったり崩したりする世界を、別の場所から眺めている。
そこはひんやりとした場所、意識は冴え渡り、感情(感情になる前のものを含め)が増幅する。そこに行きたくて、繰り返し読んでしまう。
そして詩の断片・彩りを身体にまとい、少しだけ良くなって、日常へ戻っていく。
葉ね文庫 池上規公子
著者プロフィール
白鳥央堂(しらとり・ひさたか)
1987年、静岡県生まれ。第47回現代詩手帖賞受賞。著書に第1詩集『晴れる空よりもうつくしいもの』。
現実のクリストファー・ロビン 瀬戸夏子ノート2009-2017
歌人・瀬戸夏子の真摯で豊穣な言葉は今日も世界と交差してゆく。
先鋭的な作品と批評により注目を集める歌人の初の散文集。
同人誌「町」「率」や機関誌「早稲田短歌」に発表された、穂村弘、荻原裕幸、永井祐など、「ニューウェーブ」、「ポストニューウェーブ」の歌人たちを論じた評論から、フェミニズムの視点から批評を展開し、議論を呼んだ歌壇時評、著者へのロングインタビュー、日記や詩集、小説作品、ネットプリントで配布された個人誌まで、その目を見張る多彩なテクストをここに集積する。
──この本をまとめるにあたって、たまっていた自分の文章を読みかえすことになったが、もちろん年月の経過による巧拙の差などはあれど、うんざりするほどひとつのことしか言っていないように思えた。それは、わたしはつねにクリストファー・ロビンを愛するが、現実のクリストファー・ロビンを知りたいという欲望に打ち勝つことはできず、結局のところ、そのふたりのあわいにあるものについて永遠に語りつづけていたい、という欲望である。その欲望とは一見関係のなさそうにとらえられるかもしれない文章にさえ、その欲望ははっきりと宿ってしまっている──(「あとがき」より)
著者プロフィール
瀬戸夏子(せと・なつこ)
1985年生まれ。2005年の春より作歌を始め、同年夏、早稲田短歌会に入会。その後2009年の創刊から2011年の解散まで同人誌「町」に参加し、現在「率」同人。著作に第一歌集『そのなかに心臓をつくって住みなさい』(私家版、2012年)、第二歌集『かわいい海とかわいくない海end.』(書肆侃侃房、2016年)。
近藤洋太評論集 ペデルペスの足跡──日本近代詩史考
口語自由詩を切り開いた萩原朔太郎、西脇順三郎、宮澤賢治、中原中也、立原道造たち近代詩人が通った一様ではない進化の過程。
太平洋戦争に直面した三好達治、草野心平、伊東静雄たちの生の痕跡。
詩の実作者が辿る詩史論。
装幀=佐々木陽介
著者プロフィール
近藤洋太(こんどう・ようた)
1949年福岡県久留米市生まれ。詩集に『もがく鳥』(78年)、『七十五人の帰還』(81年)、『カムイレンカイ』(85年)、『水縄譚』(93年)、『水縄譚其弐』(00年)、『筑紫恋し』(11年)、『果無』(13年)、『CQICQ』(15年)、『SSS』(17年)など。評論集『矢山哲二』(89年)、『反近代のトポス』(91年)、『〈戦後〉というアポリア』(00年)、『保田與重郎の時代』(03年)、『人はなぜ過去と対話するのか──戦後思想私記』(14年)、『現代詩文庫231近藤洋太詩集』(16年)、『辻井喬と堤清二』(16年)、『詩の戦後──宗左近/辻井喬/粟津則雄』(16年)。
手塚敦史詩集 球体と落ち葉
午後遅く、太陽の
取り分を与えられた手のひらが
触れた物質その生涯をかけて打ち込めるものへ
「ほんとうの対話ができるものにわたしはなりたい」
手塚敦史、第六詩集。
装画=中島登詩子 造本=稲川方人
あらゆる瞬間において葉は
奥深い思慮の形状へと、ながれるであろう
フィルムに貼られた綿毛や翅などの細かさとともに
複写され、
映写機を通して投影されている
地肌は
気触れてゆく暗やみを見上げ、底から不意に込み上げる胃酸の臭いを
嗅ぎ
これから生まれて来るものを予感している
光源は、幾重にも揺れている
モスライト
とおくまで離れていった印象を、何度もてのひらへ集め、
いつかのほの白い指は
自然の霊気を住まわせたように動く
──「深泥池」より
著者プロフィール
手塚敦史(てづか・あつし)
1981年甲府市生まれ。詩集に『詩日記』(ふらんす堂、2004年)、『数奇な木立ち』(思潮社、2006年)、『トンボ消息』(ふらんす堂、2011年)、『おやすみ前の、詩篇』(ふらんす堂、2014年)、『1981』(ふらんす堂、2016年)。
『「涯テノ詩聲 詩人 吉増剛造展」図録』
詩人・吉増剛造の半世紀以上におよぶ活動の中から各時代の代表的な詩集を柱とし、その詩や写真、吉増剛造に関連する表現者たちの作品や資料、鶴岡真弓、滝口悠生らによる寄稿、座談会、詳細な年譜等とともに、常にことばの限界を押し広げて来た詩人の軌跡を辿ることができる資料性の高い300頁を超える決定版図録。