『ある風景』
けれども私は待ち望んでいるのかもしれなかった。
目の前の風景が白く永遠と広がってゆく中で、
かつて互いのまぶたの上をかすめていたほのかな明かりと、
互いに感じあっていた微かな体温とが、
忘れ去られ、忘れ果てることを。
(「ある愛の風景」より)
なんでもないような風景に目をやれば、そこには記憶や過去の人々が、ふいに映し出されてしまう。おぼろげに揺らぐ、ともすればつかみそこない、のがしてしまうものを、二人称の呼びかけによってたしかめていくように綴られた41篇の詩。
抒情詩の精髄を引き継ぐ詩人の第2詩集。
装幀=清岡秀哉
A5変形・上製/96頁/2400円+税
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【新刊】野木京子詩集『廃屋の月』を刊行しました。
『廃屋の月』
最後に満月を見た日のことは覚えていないけれど
夜になると見るだろう月の姿を昼のうちに思い描くことはできる
わたしにも透き通る触手があればいいのに
そうしたら進む道などは光の方向でしかなくなるから
水面に落ち込んだかつての月明かり、今は亡き人が昔飼っていた犬の鳴き声、夢うつつの気水域に立ち現れるさざなみのような声や断片を拾い集めるように書き継がれた32篇。詩人・野木京子、第6詩集。
装幀=稲川方人
四六判・並製/120頁/2200円+税
【新刊】橘麻巳子詩集『リベオートラ』を刊行しました。
『リベオートラ』
知らないものを名づけたことが無かったので
夢で聞いた
リベオートラ
ということばをつけた
どこかにしまい隠されていた箱をひらく、不意に名づけられた記憶と日常、そして不穏な気配が立ちのぼる。橘麻巳子、第二詩集。
装幀=鈴木規子/装画=堀 光希
A5判変形/104頁/2200円+税
【新刊】若尾儀武詩集『戦禍の際で、パンを焼く』を刊行しました。
『戦禍の際で、パンを焼く』
詩は、遠い戦禍を思う
若尾儀武、第三詩集。
装幀=稲川方人
四六判・並製/96頁/2200円+税
この子の手
きっと立派な
ウクライナの手になるよ
誰かこの子の手をくるんで
連れて行ってやって
くれないか
【新刊】伊藤悠子詩集『白い着物の子どもたち』を刊行しました。
『白い着物の子どもたち』
美しいと思った日々が/絵画のような遠くを散っている
(「草深百合」より)
思い出というものではない、遠い風景の中の懐かしい微笑みやさびしさ。
少女が乗るブランコのこすれる正確な音によって伝えられる生きる生活。
清澄な叙情を伝える25篇の詩。
A5変形・上製/96頁/定価:2200円+税
女の子は
小学校の七夕の短冊に
にこにこ笑っている女の子を描いて
横に大きく
わたしがやさしくなるように
と書いていた
一年生だった
枇杷色の服ならオーバーコートがそうだった
(「絵のなか」より)
【新刊】松田ゆか詩集『人は眠り 花は歩き』を刊行しました。
『人は眠り 花は歩き』
第一詩集から五年半、風の吹くままに詩作の時を過ごす中で綴られた19篇の詩。
松田ゆか、第二詩集。
カバー絵=小池さよみ/装幀=松田瑞奈子
四六判・並製/72頁/定価:2000円+税
若苗色の実が熟して
微かに揺れもしなくなったころ
とっくの昔に終わった人の後を追う
わたしの先端にしがみついた水滴は
裂けてこぼれる時に声となる
(「藤の夜」より)
【新刊】立木 勲詩集『ウムル アネ ケグリの十二月』を刊行しました。
『ウムル アネ ケグリの十二月』
不安な時代の一隅に生きるヨンとイサオ
ふたりの日々を行き交う思いのかたちに詩の言葉が寄り添う
韓国語で「井戸の中の蛙」を意味する「ウムル アネ ケグリ」。
韓国からやってきたヨンとの暮らしと思いを描いた第一詩集『ヨンとふたりで』に続く第二詩集。
造本・装幀=稲川方人/装画=池英姫(チ ヨンヒ)
A5判・上製/88頁/定価:2000円+税
わたしは ウムル アネ ケグリ です
井戸の中のカエルです
電話の向こうでヨンが泣く
ヨンの井戸にカエルは二匹いるのだよ
僕は言う
一匹はヨンで 一匹は僕なのだよ
(「ウムル アネ ケグリの十二月」より)
穴がそれぞれであれば、這い上がるということもそれぞれであろう。その人たちの声と言葉で繋がることができればと思う。この一冊がそういう詩集であればと思う。(「あとがき」より)
【新刊】蜆シモーヌ 詩集『膜にそって膜を』を刊行しました。
『膜にそって膜を』
そこにある、やってくる、拡散する言葉/声のうねりにのみ込まれる。
蜆シモーヌ、第二詩集!。
B5判変形/80頁/定価:2400円+税
装幀=鈴木規子
「ぴりか/ぴりか/ここは楽園です。」(「ぴりか」)
「ひとはみずからを/模倣して/なにももたずに、そこをでていく」(「春のために」)
【新刊】『映画夢情(えいがゆめなさけ)』を刊行しました。
1960年代初めより映画への溢れる愛憎を自在闊達な思考と文体で書き継いできた佐藤千穂。その知られざる全容を集成。
『映画夢情』
四六判上製/676頁/定価:4800円+税
解題=梶間俊一(映画監督)/荒井晴彦(脚本家/映画監督/「映画芸術」代表)
ボクにとっては近年最も刺激的な映画論集であった。 梶間俊一
小川徹の「裏目読み批評」なんて、いまや誰も知らないだろう。女小川徹みたいな千穂節の映画評論を世に知らしめたいとずっと思っていた。 荒井晴彦
岸田将幸詩集『風の領分』第29回萩原朔太郎賞受賞!
岸田将幸さんの詩集『風の領分』が第29回萩原朔太郎賞を受賞しました。
ごらん、これがほんとうの正午の火照り。きみに影をつくる、生きて在ることの静かな明るさ
現代詩の主体と詩語のありかを問い続けてきた詩人・岸田将幸。
前詩集『亀裂のオントロギー』から7年、静かなる耐久の時間を経て、限りある存在の地平から詩にゆるやかな解放をもたらす待望の第六詩集。
『風の領分』
A5判変形/112頁/定価:2800円+税