刊行物カテゴリー: 詩集

【近刊】藤田文江全集

著者:藤田文江・編者:谷口哲郎
定価:3000円+税
判型:四六判・上製
ページ数:460(口絵8ページ)
ISBN:978-4-908568-48-0

戦前・鹿児島の知られざる詩人・藤田文江。
わずかな生涯の中で、その身の内に躍動する漆黒を見つめた藤田の「聲」を、いま呼び起こす。

左川ちか、永瀬清子と同時代を生き、中野重治に高く評価された詩人の初の全集。
唯一の詩集『夜の聲』全篇と未収録詩篇、散文、書簡、編者による解説、妹・林山鈴子氏へのインタビューを収録。
装幀=稲川方人

夜の聲は何故こゝまでやつて来た。
おまへの咳を聞いてゐると
私はたまらなく寂しくなる。
然し私は私の里おまへに媚びるよ
私はおまへと共にある時
ほんのわづか富んでゐるのだから。
(『夜の聲』より)

著者プロフィール
藤田文江(ふじた・ふみえ)
1908年鹿児島生まれ。短かった人生の約12年間を植民地台湾で送り、本土(鹿児島)に戻って女性だけの詩誌『くれなゐ』に参加。その後『詩神』投稿欄の全国の若き詩人たちが集った詩誌『鬣』の同人に。1933年『万国婦人子供博覧会』の歌詞一等当選。同年、唯一の詩集『夜の聲』を編集したが出版直前に24歳で病死。
編者プロフィール
谷口哲郎(たにぐち・てつろう)
1966年鹿児島生まれ。詩誌『オドラデク』発行。詩誌『野路』『天秤宮』『詩創』同人。
村永美和子の評伝『詩人藤田文江』によりその詩と存在を知り、「戦争の地震計としての詩 藤田文江詩集『夜の聲』(1933)論」、自ら調査した未収録詩篇を中心に「藤田文江異聞」を執筆。

【新刊】中尾太一詩集『ルート29 、解放 新装版』

著者:中尾太一
定価:2000円+税
判型:四六判・並製
ページ数:136
ISBN:978-4-908568-46-6

中尾太一詩集『ルート29、解放』(2022年)が森井勇佑監督(『こちらあみ子』)により映画化!
映画『ルート29』原作詩集の新装版
装幀=清岡秀哉

国道29号線、きみは
このどうということのないものが接続された
骨と体が
百年後には決して
託せないものをしっているだろうか
わたしはそのころ
きみが素足で土をふみながら歩いていることを
祈っている
約束とはそういうもので
つなぐ手を永遠に借りてもいいという信頼に
わたしは永遠に、救われている
(「ルート29、解放」より)

▪️映画公開情報
『ルート29』
11月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演:綾瀬はるか、大沢一菜、市川実日子、高良健吾、河井青葉
監督・脚本:森井勇佑
配給:東京テアトル、リトルモア
©2024「ルート29」製作委員会
公式サイト:route29-movie.com/

【新刊】斐伊川相聞

著者:冨岡悦子
定価:2400円+税
判型:四六判・上製(コデックス装 ドイツ装)
ページ数:80
ISBN:978-4-908568-44-2

八雲たつ地は きょうは雨降り。出雲空港に降り立ったひとつの意志が時を重ねたみずからの生の消息を川の蛇行に沿ってさまよう父に告げる。
小熊秀雄賞・小野十三郎賞受賞の『反暴力考』から4年、冨岡悦子新詩集。

父とふたり 川を見つめていた
水は滔々と流れ 岸をあらった
川を渡る判断は 父の右手にあり
左手は 私の手を握っていた
はねあがる 褐色の冬の鹿が
脳裏で ひときわ高く跳んだ
後裔を絶った人の 声がよみがえってくる
さざれ石を 荘厳な声で うたうな
(「父の右の手」より)

著者プロフィール
冨岡悦子(とみおか・えつこ)
1959年東京都生まれ
著書
『植物詩の世界 日本のこころ ドイツのこころ』(2004年 神奈川新聞社)
『パウル・ツェランと石原吉郎』(2014年 みすず書房 第15回日本詩人クラブ詩界賞受賞)
詩集
『椿葬』(2007年 七月堂)
『ベルリン詩篇』(2016年 思潮社)
『反暴力考』(2020年 響文社 第54回小熊秀雄賞・第23回小野十三郎賞受賞)

【新刊】ある風景

著者:宮田直哉
定価:2400円+税
判型:A5変形・上製
ページ数:96
ISBN:978-4-908568-42-8

けれども私は待ち望んでいるのかもしれなかった。 目の前の風景が白く永遠と広がってゆく中で、 かつて互いのまぶたの上をかすめていたほのかな明かりと、 互いに感じあっていた微かな体温とが、 忘れ去られ、忘れ果てることを。 (「ある愛の風景」より)
なんでもないような風景に目をやれば、そこには記憶や過去の人々が、ふいに映し出されてしまう。おぼろげに揺らぐ、ともすればつかみそこない、のがしてしまうものを、二人称の呼びかけによってたしかめていくように綴られた41篇の詩。
抒情詩の精髄を引き継ぐ詩人の第2詩集。
装幀=清岡秀哉

著者プロフィール 宮田直哉(みやた・なおや) 詩人。1991年、福岡県生まれ。第1詩集に『夏の物語と歌』(水声社。2020年)。その他詩誌『Noix』発行人、詩誌『カナリア』『とんぼ』同人、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員。
この道の白さが、墓標の十字架であるように、私たちの生もささやかな幸福と過ぎ去っていった死者たちと共にこの道の上に残されていくだろう。そうして人々から忘れ去られた後、死者たちへの追憶と追憶のあわいに、ふと私たちと似た物語の中に思い出されるだろう。 (「夜の街角」より)

【新刊】廃屋の月

著者:野木京子
定価:2200円+税
判型:四六判・並製
ページ数:120
ISBN:978-4-908568-41-1

第35回富田砕花賞受賞

最後に満月を見た日のことは覚えていないけれど 夜になると見るだろう月の姿を昼のうちに思い描くことはできる わたしにも透き通る触手があればいいのに そうしたら進む道などは光の方向でしかなくなるから
水面に落ち込んだかつての月明かり、今は亡き人が昔飼っていた犬の鳴き声、夢うつつの気水域に立ち現れるさざなみのような声や断片を拾い集めるように書き継がれた32篇。詩人・野木京子、第6詩集。
装幀=稲川方人

空の河原かどこかで逢ったことのある/小さな子が部屋の隅から出てきて言った/ゆっくりと回転しながら/この世に現れ出たのだから/立ち去るときもきっと/見えない姿のまま/ゆるやかに回転して/戻っていくはず/そのとき真新しい風を頰に浴び/初めての色彩の景色を見るから/楽しみにしているとよいよ/と(「空の河原」より)

著者プロフィール
野木京子(のぎ・きょうこ)
詩人。熊本県八代市生まれ。2007年に『ヒムル、割れた野原』(思潮社、2006年)で第57回H氏賞を受賞。
その他の詩集に『明るい日』(思潮社、2013年)、『クワカ ケルル』(思潮社、2018年)などがある。

リベオートラ

著者:橘 麻巳子
定価:2200円+税
判型:A5判変形
ページ数:104
ISBN:978-4-908568-39-8

知らないものを名づけたことが無かったので 夢で聞いた リベオートラ ということばをつけた
どこかにしまい隠されていた箱をひらく、不意に名づけられた記憶と日常、そして不穏な気配が立ちのぼる。橘麻巳子、第二詩集。
装幀=鈴木規子/装画=堀 光希

著者プロフィール 橘 麻巳子(たちばな・まみこ) 1989年生。
第一詩集『声霊』(七月堂、2021年)。
笹木一真との詩のユニットによる詩誌「NININ」(2022年)。

戦禍の際で、パンを焼く

著者:若尾儀武
定価:2200円+税
判型:四六判・並製
ページ数:96
ISBN:978-4-908568-38-1

詩は、遠い戦禍を思う
若尾儀武、第三詩集。
装幀=稲川方人

この子の手
きっと立派な
ウクライナの手になるよ
誰かこの子の手をくるんで
連れて行ってやって
くれないか


著者プロフィール
若尾儀武(わかお・よしたけ)
1946年、奈良県大和郡山市の農村部に生まれる。
静岡県大学人文学部卒。
詩集
『流れもせんで、在るだけの川』(ふらんす堂、2014年、第24回丸山豊記念現代詩賞受賞)
『枇杷の葉風土記』(書肆子午線、2018年)

白い着物の子どもたち

著者:伊藤悠子
定価:2200円+税
判型:A5変形・上製
ページ数:96
ISBN:978-4-908568-37-4

第31回丸山薫賞受賞

美しいと思った日々が/絵画のような遠くを散っている
(「草深百合」より)

思い出というものではない、遠い風景の中の懐かしい微笑みやさびしさ。
少女が乗るブランコのこすれる正確な音によって伝えられる生きる生活。
清澄な叙情を伝える25篇の詩。

女の子は
小学校の七夕の短冊に
にこにこ笑っている女の子を描いて
横に大きく
わたしがやさしくなるように
と書いていた
一年生だった
枇杷色の服ならオーバーコートがそうだった
(「絵のなか」より)

著者プロフィール
伊藤悠子(いとう・ゆうこ)

詩集
『道を 小道を』(ふらんす堂、二〇〇七年)
『ろうそく町』(思潮社、二〇一一年、第44回横浜詩人会賞)
『まだ空はじゅうぶん明るいのに』(思潮社、二〇一六年、第34回現代詩花椿賞)
『傘の眠り』(思潮社、二〇一九年)

エッセイ集
『風もかなひぬ』(思潮社、二〇一六年)

人は眠り 花は歩き

著者:松田ゆか
定価:2000円+税
判型:四六判・並製
ページ数:72
ISBN:978-4-908568-36-7

若苗色の実が熟して
微かに揺れもしなくなったころ
とっくの昔に終わった人の後を追う
わたしの先端にしがみついた水滴は
裂けてこぼれる時に声となる
(「藤の夜」より)

第一詩集から五年半、風の吹くままに詩作の時を過ごす中で綴られた19篇の詩。
松田ゆか、第二詩集。
カバー絵=小池さよみ/装幀=松田瑞奈子

著者プロフィール
松田ゆか(まつだ・ゆか)
1968年、東京都生まれ。
詩集『二十年目の花火』(北溟社、2017年)。
日本詩人クラブ会員、埼玉詩人会会員。

立木 勲詩集 ウムル アネ ケグリの十二月

著者:立木 勲
定価:2000円+税
判型:A5判・上製
ページ数:88
ISBN:978-4-908568-35-0

不安な時代の一隅に生きるヨンとイサオ ふたりの日々を行き交う思いのかたちに詩の言葉が寄り添う
韓国語で「井戸の中の蛙」を意味する「ウムル アネ ケグリ」。 韓国からやってきたヨンとの暮らしと思いを描いた第一詩集『ヨンとふたりで』に続く第二詩集。
造本・装幀=稲川方人/装画=池英姫(チ ヨンヒ)
わたしは ウムル アネ ケグリ です
井戸の中のカエルです
電話の向こうでヨンが泣く

ヨンの井戸にカエルは二匹いるのだよ
僕は言う

一匹はヨンで 一匹は僕なのだよ
(「ウムル アネ ケグリの十二月」より)

穴がそれぞれであれば、這い上がるということもそれぞれであろう。その人たちの声と言葉で繋がることができればと思う。この一冊がそういう詩集であればと思う。(「あとがき」より)
著者プロフィール
立木 勲(たつぎ・いさお)
一九五八年六月生まれ。長野県伊那市出身。詩集に『ヨンとふたりで』(ふらんす堂、二〇一六年)「タンブルウィードの会」同人。