
けれども私は待ち望んでいるのかもしれなかった。
目の前の風景が白く永遠と広がってゆく中で、
かつて互いのまぶたの上をかすめていたほのかな明かりと、
互いに感じあっていた微かな体温とが、
忘れ去られ、忘れ果てることを。
(「ある愛の風景」より)
なんでもないような風景に目をやれば、そこには記憶や過去の人々が、ふいに映し出されてしまう。おぼろげに揺らぐ、ともすればつかみそこない、のがしてしまうものを、二人称の呼びかけによってたしかめていくように綴られた41篇の詩。
抒情詩の精髄を引き継ぐ詩人の第2詩集。
装幀=清岡秀哉
著者プロフィール
宮田直哉(みやた・なおや)
詩人。1991年、福岡県生まれ。第1詩集に『夏の物語と歌』(水声社。2020年)。その他詩誌『Noix』発行人、詩誌『カナリア』『とんぼ』同人、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員。
この道の白さが、墓標の十字架であるように、私たちの生もささやかな幸福と過ぎ去っていった死者たちと共にこの道の上に残されていくだろう。そうして人々から忘れ去られた後、死者たちへの追憶と追憶のあわいに、ふと私たちと似た物語の中に思い出されるだろう。
(「夜の街角」より)