野木京子さんが詩集『廃屋の月』の成果により第75回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されました。
空の河原かどこかで逢ったことのある
小さな子が部屋の隅から出てきて言った
ゆっくりと回転しながら
この世に現れ出たのだから
立ち去るときもきっと
見えない姿のまま
ゆるやかに回転して
戻っていくはず
そのとき真新しい風を頰に浴び
初めての色彩の景色を見るから
楽しみにしているとよいよ
と
(「空の河原」より)
水面に落ち込んだかつての月明かり、今は亡き人が昔飼っていた犬の鳴き声、夢うつつの気水域に立ち現れるさざなみのような声や断片を拾い集めるように書き継がれた32篇。詩人・野木京子、第6詩集。
装幀=稲川方人
『廃屋の月』
四六判・並製/120頁/2200円+税